・よく晴れた風の強い日に廃墟に行った。建物を囲んで張られた紅白の立ち入り禁止のビニールテープは細かく切れて風に煽られ、海底の小さなエビみたいに好き勝手に靡いていた。工場としての役目を終えたこの建物に来る人はそんなに多くはないだろうから、私が侵入しようとしていることに反応してワーワーと騒いでいるように見えた。

・それぞれのドアや窓は施錠されていなくて、強風でギシギシバタバタと動く。金属の重い扉はもちろん潤滑剤なんか何年も差してもらってないだろう。エビたちよりも私を警戒して、耳に付く誰かのうめき声みたいな大きな音をずっと立てている。あんまりにも絶えずギッタンバッタン言っているから、誰かがいるのか?などと思ってしまった。

・建物の入り口から向かって左側には、大きなタンクがいっぱいあった。開口のすぐ真横にあるタンクの一つに、私の顔の高さくらいの位置に大きな穴があって中は真っ暗だった。タンクが大きな口を開けて待ち構えていたみたいで吸い込まれそうで、怖くてしっかりとは覗けない。

・金属製の仮設の階段は六段目がぐらぐら動いて踏み外しそうになった。油断させておいて黙って意地悪をしてくる陰険なタイプだ。

・風が吹くたびに、割れたガラスが枯れ葉みたいにパラパラと落ちてくるし、埃が舞う。太陽に照らされてキラキラ綺麗だと思ったけど、冷静に考えると危ないし汚いしで私にとっては全然良くない。

・鳩がたくさん住み着いているようだ。

・建物の入り口から向かって右側は大きな吹き抜けのある空間があった。さっきのうるさい扉を開けるとその先には床も階段もなくて、騙されて3〜4mほど下に落ちるところだった。危ない。コンクリートブロックの壁の断面を見ると接着剤的なセメントが垂れていて、あっかんべをしている3兄弟みたいなのがいた。ちょっとかわいい。

・吹き抜けには気持ちよく太陽が差し込んでいた。澄んだ水溜りができていて、その真ん中のあたり、ちょうど人が手を伸ばしても届かないくらいの位置に、細い木の枝が山積みになっているところがあった。水に住む毛むくじゃらの主だなと思った。その空間は全体的に気持ちの良い神聖な雰囲気があった。この建物の主は気の良いやつなんだろう。今日は天気もいいからね。床の配管が剥き出しになっていて、それがちょうど主を守る境界線みたいな役割を果たしていた。

・この空間の入り口代わりになっている小さな窓から外を覗くと、ちょうど敷地の外の落書きだらけのコンテナが見える。この建物に呼応しているようだった。仲間?

・壁に囲われた、タンクでぎっしりの空間があった。その部屋に行くには主の水溜まりにかかった飛石的な端材を2歩分踏んでいかなければならない。一つ目はびしょびしょに濡れた断熱材のかけらで、踏むと妙な感触で申し訳なくなる。2歩目の位置には40x40cmくらいの板があって、乗るとシーソーみたいにガタガタ動く。タンクが綺麗に並んだ空間は教会みたいな雰囲気だった。大事な場所だったんだろう。

・勇気を出して建物の反対側に。エレベーターと階段室があるこの建物のコアの部分には太陽の光が届かなくて、暗く、前半で見てきた空間とは少し質が違う。

・ガラスブロックの壁が不自然に破れていた。拳大くらいの穴がいくつか空いていて、傷跡のようだった。

・試しに階段を1階分降りてみたけど、真っ暗で、開口がビニールに覆われていてそれ以上はどうしても進めなかった。

・建物を出て水際のウッドデッキのところに、やたらと繊細で綺麗なネットの塊が横たわっていた。落ちていたというよりは、廃墟からやっとのことで脱出し、力尽きて崩れ落ちたような風貌で。この廃墟の何かを救ったのかもしれない。もしくは、命からがら抜け出したのかもしれない。

 

何がそんなに辛いんか知らんけど辛いな。大学にいた頃と同じような辛さがある。何を頑張ったらいいか分からない。てかこれはそうだ、友達が少ないことに原因があるんだよな確か。別にたくさんの友達が欲しいタイプではないんだけど、完全に気を抜いてあえる友達がいないと死んじゃいそうになる時があって、今がそれ。油断できる人間関係がない。辛いよ〜〜〜。

 

今日は別に行かなくて良いよ。身支度して学校行って机作ろう。