夏休みが終わった

ストックホルムに戻ると冬だった。

気温は15度前後で夜になると6度まで下がる。街にはタンクトップ短パンの人もいればダウンジャケットを着ている人もいる。

 

予想はしていたが、帰ってきて2日ほどで案の定ホームシックになった。大学生の4年間をホームシックに疾患し続けた経験から、一度帰省して戻ってきてからがこの病の本番であることを私は知っている。久しぶりに戻った自宅は暖かく快適で、ストックホルム独特の空気の匂いも懐かしく感じる。近所のスーパーの甘さ控えめのシナモンロールも美味しいし、数ヶ月ぶりに会うクラスメイトとも、夏の間どう過ごしていたか、話が弾んで嬉しい。でも、今まで我慢できていたはずの、ちょっとしたうまくいかないことで、ストッパーがなくなったようにすぐに涙がこぼれてしまう。

 

このセメスターは、縦割りのグループ課題から始まった。学部3学年、修士2学年の5クラスがごちゃ混ぜになって10個のグループを作り、それぞれが自分達のスタジオの共有スペースを割り振られて計画をするというものだ。このグループの中での会話がだんだんと英語からスウェーデン語に移っていくのが辛かった。

私が英語しか理解しないのを全員が知っていながら目の前でスウェーデン語が飛び交う状況が何度も何度も起こる。講師を含めて。Sorry, what are you talking about? Sorry, I didn't get it. What are we gonna do next? Sorry, do you mind if I ask you to speak English, please?  もう誰にも謝りたくない。

 

1ヶ月半、家族と気の置けない友人たちとに囲まれてヘラヘラと楽しく生活していたから、少しでも自分が蔑ろにされることに我慢ができなくなっている。すぐにムカつくし悲しくなってしまう。こっちでできたこの文化圏で育った友人には、どんな反応が返ってくるかわからない上に反応次第ではもっと傷ついてしまうかもと思うと怖くて話せない。1年目は慣れない場所で戦闘態勢だったからどうにかなったが、夏休みでそれが緩んでしまったんだろう。

私が今この「自分が尊重されてないと感じて悲しい」状況にぶち当たっているのは、自分で選んで違う文化圏に飛び込んだからで、それができたこと自体はとても幸運なことだとはわかっている。やむを得ず知らない文化圏に放り出されることだって、自分が生まれた文化圏にずっと馴染めないことだってあるはずで、こういうすぐには解決しないだろう根本的な分かり合えなさみたいなものを抱えている人はたくさんいる。文化圏だけの話でもない。自分にとってと他人にとってのこういう気持ちともう少し長く付き合っていく必要がありそうだ。

 

H/K レよナょιカゝゎゑヶ├″

 

ストレスが溜まってくると皮膚の柔らかい部分が荒れる。

去年は肘の内側がボロボロになって今も跡が消えない。卒制の頃はなぜか脇のふちが爛れた。今日の朝起きると唇が全体的に荒れていた。今年は顔か。

乾燥して端がピッと切れることはあっても、ここまで荒れることは今までなかった。人体のメカニズムについての知識は全く無いが、このペースで皮膚が剥がれ落ちると、1週間後には今私の唇を形成している細胞は全部なくなってしまうと思う。局所的に新陳代謝が死ぬほど良くなっている。

そうなってくると今後の1週間に摂取するものが私の未来の唇の主成分となる。これは一大事だ。どうせなら唇がストロベリーでできた女とかになりたい。かわいいから。しかしあいにく私はアレルギーを持っていて、苺も桃もさくらんぼも、おおよそ世間で可愛いとされている果物は全部食べられないので、シナモンロールあたりで手を打とう。

少し休んで体力を取り戻して、唇がシナモンロールでできたかわいい女が元気で1週間後のストックホルムを闊歩していることを願う。